東京高等裁判所 昭和30年(う)1667号 判決
被告人 志村巖 外三名
〔抄 録〕
論旨第一点。
原判決が原判示第二の犯罪事実認定の証拠としていずれも検察官に対する被告人矢口昭、同永井敏夫の各供述調書を援用していること並びに右書面は、その相互の関係において刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号に該当するものとして証拠調を行いこれを証拠に採用したものであることは洵に所論の指摘するとおりである。而して刑事訴訟法第三百十九条第二項第三百二十二条等において被告人といい憲法第三十八条第三項に本人というのは、特定の被告人自身の意味であり、共犯者乃至共同被告人の如きは、右にいわゆる被告人又は本人ではなく被告人以外の者又は本人以外の者と解するのが相当であること既に数多くの最高裁判所判例の示すとおりである。従つて原判決の趣旨とするところは、被告人矢口昭の関係においては右被告人本人の右自白調書とその自白の補強証拠として共犯者にして且つ共同被告人である永井敏夫の右供述調書とを援用し、被告人永井敏夫の関係においては右被告人本人の右自白調書とその自白を補強する証拠として共犯者であり同時に共同被告人である矢口昭の右供述調書とを援用したものであつてこれらは相互に自白に対する適法な補強証拠の役割をなしていて何ら前記法条に違反する違法をもつて目すべきものではない。又被告人等が公判廷で黙秘権を行使し何らの供述をしないこと自体は何ら妨げない事柄であるけれども、この供述を拒否して黙秘していることは、その黙秘が他の被告人と共同被告人の地位において併合審理を受けている場合たると、或は、共犯たる他の被告人が審理を受けている法廷において証人たる資格において尋問を受けている場合たるとを問わず、その者の検察官に対する犯罪事実を自白する趣旨の供述調書が存する場合において他の被告人に対する関係においては刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号本文にいわゆる公判廷において前の供述と相反する供述をしたときに準じこの場合と同様に取り扱うを相当とするのであるから、本件において記録上明らかなとおり原審公判廷において被告人等がいずれもその冒頭陳述として本件起訴にかかる犯罪事実の成立を否定する趣旨の供述をなした外何らの資格においてもその供述を拒否している以上、検察官においてその手裡に存する右犯罪事実を肯認する趣旨の被告人等の検察官に対する所論供述調書をそれぞれ他の被告人に対する関係において前記法条項該当の書面としてこれが証拠調を請求し被告人側弁護人の異議あるに拘らず原裁判所がこの請求をいれその証拠調を終了しこれを本件犯罪事実認定の証拠に供したことは、もとより相当であつてこれを目して何ら違法の措置というべきではない。又記録を精査しても右各供述調書については任意性並びに信用性その他適法な法定の要件を具備しているものと認められる。これを要するに所論は全く独自の見解に立脚して適法な原判決の右供述調書の採証を攻撃するものであつてこれを採用するに由のないものである。論旨は理由がない。
二、同第二点。
当選を得せしめる目的で選挙運動者に対し金銭を授受する公職選挙法違反の事犯において選挙運動報酬、労務費用買収資金等が一括して、そのいずれの部分が報酬でいずれの部分が買収資金等であるといつたように明確に区別し得ない状態において相互にその情を知つて授受された場合には授与した者についてはその金額全部につき公職選挙法第二百二十一条第一項第一号のいわゆる供与罪、授与を受けた者については右全額につき同条項第四号の受供与罪が成立するものであつて右授与を受けた金員中に買収資金が含まれその部分が比較的多量だからといつて同条項第五号に該当する交付罪又は受交付罪が成立するものと解すべきものではない。ところで原判決挙示の証拠によれば、原判示第一の一、二(被告人志村巖の供与罪)同第二(被告人矢口昭、同永井敏夫の共同受供与罪)同第三(右被告人二名及び同山田保の共同受供与罪)の各犯罪事実を肯認するに十分である。すなわち、これによつて被告人志村巖とその余の被告人三名の間に授受された金員は単に買収資金の趣旨のみではなく右被告人三名の選挙運動報酬或はその運動のための食費その他のいわゆる労務の実費の趣旨をも含めて一括して授受されていることが甚だ明瞭である。然らば冒頭に述べたところによつてこの授受された金員はその全額についていわゆる違法な供与に該当する性質を具有するものと認めざるを得ない。而して、なるほど、買収資金が授受され、これを受け取つた者において、更にこれを買収のために他に供与したような場合において前の金員を受け取つた点は後の供与の罪に吸収され別罪を構成しないことは所論のとおりであるけれども、これはその授受された金額すべてが買収資金であることが明確な場合であつて本件のような他の運動報酬などと不分明なような状態で一括して授受された場合とは異なるものであり、この後の場合はその授受について供与罪受供与罪の成立を否定することのできないものであるが故に、この点に関する所論引用の判例は本件に適切ではなく所論はこれを採用し難い。所論につき訴訟記録を精査検討しても原判決に右事実の認定を誤つた廉あるを発見することができない。論旨は理由がない。
註 本件破棄は量刑不当。